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札幌高等裁判所 昭和38年(ラ)54号 決定 1963年12月02日

抗告人 河村高雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙のとおりである。

よつて、案ずるに、抗告人が、本件競落物件の一部である札幌市琴似町二十四軒二五一番三宅地五〇〇坪二合二勺および同町二十四軒二五一番六宅地二六坪六合の二筆を、昭和三一年八月二二日、本件債権者である札幌信用金庫に、存続期間満五ケ年、賃料月二〇〇円全額前払済の短期賃貸借で貸したこと、その期間満了の二ケ月ほど前である昭和三六年六月一三日に、同金庫は、前記同町二十四軒二四七番地家屋番号七三番ノ三の木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建工場および包装室建坪五五坪二合五勺(実測七八坪五合)ならびに附属建物四棟を競落し、その競落許可決定が確定したこと、右工場建物は前記二五一番三の宅地上に建設せられていること――以上の事実は、いずれも記録を検討してこれを認定することができる。

しかしながら「右短期賃貸借の期間満了後は、信用金庫の右建物所有は敷地占有の権原を伴わぬものであるから、以後は地主たる抗告人に対して土地を不法占有していたことになる。」との抗告人の所論は、必ずしも肯定することができない。けだし、土地と地上建物とが同一の所有者に属する場合に、その一方が競売せられることによつて、建物の所有者が敷地を利用しえなくなるというようなことのないように、民法第三八八条にいわゆる法定地上権の定めが存するのである。本件事案においては、建物敷地に設定せられていた賃貸借が抵当権の実行によつて覆滅せられることのない短期賃貸借であり、しかもたまたまその賃借人が建物の競落人となつた場合であつたため、競落の時点において建物の所有者は土地の占有権原を有したので、その意味では法定地上権の成立を擬制する必要はなかつたわけである。しかし、短期賃貸借は期間が短い上に、競売実行後においては更新することもないので、建物競落人は早晩土地の占有権原を失うのが必然的結果であることと前示法条の法意とを考え合せると、このような場合には、短期賃貸借の期間満了後に効力を生ずべき始期附の法定地上権が成立すると考えるのが相当である。(もし、短期賃貸借を失効せしめて、直ちにいわゆる法定地上権を成立せしむべきものと解すると、本件における如く期間中の賃料を前払いしてある場合のように、保護されるべき建物競落人にとつてかえつて不利な事態を生じるおそれがあるから、そのように解することは相当でない。)

そうすると、本件においては、所論の期間満了後も、信用金庫は法定地上権に基いて建物敷地を利用しえたものであるから、不法占有の損害金債権を以て相殺の自動債権と主張する抗告理由は、失当であるといわなければならない。もつとも、法定地上権については、当事者の請求をまつて裁判所が地代を定むべきものである。その額いかんによつては、抗告人のなした相殺は、この地代相当額の累計額を自働債権としてなされたものと善解する余地もないではないが、抗告人自身の認める残存債務額を相殺によつて消滅せしめるためには、右の累計額が少なくとも右債務額金二三五万六六七八円とならねばならず、昭和三六年八月から同三八年九月までの二五ケ月分で右の額とするためには、一ケ月の地代額が少なくとも金九万四二六七円以上でなければならぬこと算数上明らかである。しかるに、地代額が右の額あるいはそれ以上を相当とすることを推測せしめるに足る資料は、記録上見出すことができないから、右相殺による残存債務額の消滅は――少くとも全額消滅の意味では――これを認めるに由ない。従つて、債権の全部消滅を理由として原決定の取消を求める本件抗告は、理由がないといわざるをえない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 臼居直道 倉田卓次)

別紙

昭和三八年(ラ)第五四号(原審札幌地裁昭和三四年(ケ)第一四五・一五一号)

抗告人 河村高雄

抗告人の抗告の趣旨および理由

抗告の趣旨

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

抗告の理由

一、抗告人は本件競落物件を所有しておりこれを競売債務者三鈴食品株式会社の債務のため担保提供をし且つ連帯保証をしていたもので本件の利害関係人である。

二、前記事件の債権者札幌信用金庫が競売の請求債権として申立てており且つ現存すると認めらるる額は以下のとおりである。

すなわち

(一) 不動産競売申立書第二項及び第五項記載の元本金八〇万円也及び元本金九〇万円也の二口の元利については其の後競落代金の配当により右各元本全部並びに右各元本とに対する昭和三四年九月一日より同三六年八月三一日まで二ケ年分の日歩六銭の割合による損害金七四万五千六百二十円が弁済となり残存するのは右各元本合計金一七〇万円也に対する昭和三三年一月二六日から同三四年八月三一日までの間の日歩六銭の割合による損害金合計金五七万九千円也のみである。

(二) 同上申立書第二項及び第五項記載の元本金十三万五千三百三十一円也の口の元利については其の後弁済がなく右元本及び之に対する昭和三四年四月一日より後記相殺をなせる日である昭和三八年九月一六日までの間日歩六銭の割合による損害金一三万二二五四円也以上合計二六万七五八五円也が現存してかる。

(三) 同上申立書第四第六項記載の元本九〇万円也の元利についてはその後競落代金の配当により右元本に対し内入として九万八千五百六十六円也を又右元本に対する昭和三四年九月一日から同三六年八月三一日まで二ケ年分の日歩六銭の割合による損害金三十九万四千七百四十円也が弁済となり、残存するのは元本残八〇万一千四百三十四円也及び九〇万円に対する昭和三三年二月二四日から同三四年八月三一日までの間の日歩六銭の割合による損害金二九万九一六〇円也並に八〇万一千四百三十四円也に対する昭和三六年九月一日より後記相殺をなせる日である昭和三八年九月十六日までの間日歩六銭の割合による損害金三五万九二〇三円也以上合計一四五万九千七百九拾七円也である。

(四) 更に本件の共益費用合計五万二百九十六円也

以上(一)乃至(四)の金額合計金二三五万六六七八円也となり抗告人は連帯保証人として以上を債権者に弁済すべきものである。

三、ところが抗告人は本件競落物件の一部である札幌市琴似町二十四軒二五一番参宅地五百坪弐合弐勺および同町二十四軒二五一番六宅地弐六坪六合を所有していたところ之を昭和三一年八月二二日本件債権者札幌信用金庫へ存続期間満五ケ年賃料一ケ月金二百円也と定めて短期の賃貸借をしたが右賃貸借は昭和三六年八月二一日を以て期間満了により終了し爾来無契約のまま今日に至つた。この間債権者札幌信用金庫は本件競売事件の競落により昭和三六年六月十三日右二五一番地参の土地上にある札幌市琴似町二十四軒二四七番地家屋番号同字七参番参木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建工場兼包装室建坪五十五坪弐合五勺其の他附属蒸溜室、工場、貯蔵室の所有権を取得し今日に至つているが、以上記載のとおり賃貸借終了後は無契約のまま土地の使用をして来たものであるから抗告人に対して一ケ月当り金十五万円也の賃料相当の損害金を支払うべき必要があり昭和三六年八月二二日以降同三八年九月二二日まで二十五ケ月間の損害金の合計は金三百七十五万円に達するので抗告人は前記のように債務者の支払わねばならない金二百三十五万六千六百七拾八円也の負債とこの債権を同額で相殺するべく昭和三八年九月二一日書留内容証明郵便相殺通知書を債権者札幌信用金庫宛発送をなし右通知は到達したので本件債権は全部弁済したといわねばならずその上は本件競売は続行し得ないものであるから須らく原決定を取消し競落を許さない旨の御決定を仰ぎたく即時抗告に及びます。

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